【フィクションと法律】過ぎたるは…(『半沢直樹』より)

弁護士の安井です。

今回のブログでは、先月より続編が放映されている日曜劇場『半沢直樹』第2シーズンから。 

前編ラストシーンで東京セントラル証券への出向を命じられた半沢直樹(演・堺雅人)。東京中央銀行とタッグを組む電脳雑技集団との買収劇に立ち向かう次の一幕を見てみよう。

 電脳雑技集団からの買収に対抗すべくホワイトナイトとして名乗りを上げたFOX。しかし、経営不振のFOXに東京中央銀行が1000億円もの貸付けを行うはずがない…東京中央銀行は何かを企んでいる。

伊佐山部長(演・市川猿之助)のデスクに眠っている「電脳雑技集団によるスパイラル買収計画」さえ手に入れば、その企みが明らかになる。 そんな中、東京セントラル証券を裏切って東京中央銀行に戻してもらったものの、大した仕事を与えてもらえない三木(演・角田晃広(東京03))。

うだつが上がらない自分の営業手腕を半沢だけは認めてくれている―― 伊佐山からの「クズは何をやらせてもクズだな」という暴言を受け、三木は自らの役割を全うしようと決意する(『半沢直樹』にはパワハラが多すぎる…)。 

三木はキーボックスから伊佐山のマスターキーを取り出し、「スパイラル買収計画」を盗み出そうと画策する。備品交換を装いながら、伊佐山のデスクに近寄り、引出しを開ける。

「電脳雑技集団によるスパイラル買収計画」の全容をスマホに収め、辛うじてデータを半沢に送信する。 

データを受け取った半沢は、電脳雑技集団と東京中央銀行、そしてFOXによるスパイラル乗っ取り計画を大洋証券広重に突き付け、全てを自白させ東京中央銀行との真っ向勝負が幕開ける―― 

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半沢直樹第2シーズン前半山場のこのシーン。半沢からも止められていたように三木のこの行動は一発アウト、懲戒まっしぐらである。 「不正競争防止法」2条1項には、次のような定めがある。―――――――――――――――――――――――――――――

この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

「窃取…その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(営業秘密不正取得行為)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を…開示する行為」(4号)

「その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、…営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を…開示する行為」(5号)

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さらに、「不正競争防止法」21条には「次に該当する者は、10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定められている。

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「…その営業秘密保有者に損害を加える目的で、…管理侵害行為により、営業秘密を取得した者」(1号)

「…管理侵害行為により取得した営業秘密を、…その営業秘密保有者に損害を加える目的で、…開示した者」(2号)

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「電脳雑技集団によるスパイラル買収計画」 これは、「秘密として管理」された「有用な営業上の情報」であって、かつ「公然と知られていないもの」であり、「営業秘密」に該当することが明らかであろう(2条6項)。

 三木は達成感に浸っていたが、スマホに写真を納めた時点で「営業秘密不正取得行為」に該当し、それを半沢に送信した時点で「開示行為」に該当する(4号)。 

さらに、問題なのは、三木はご丁寧にも、マスターキーを取り出しながら半沢に対し自分が今から何を行おうとしているか告げている。さらにさらに、最悪なのは、森山(演・賀来賢人)が「スパイラル買収計画」を印刷している間に、不正取得の顛末を報告している。

これにより、半沢も営業秘密不正取得介在行為を知ったことになり、広重に突き付けた時点で「開示行為」をしたこととなる(5号)

 これらの行為は東京中央銀行という「営業秘密保有者」に損害を加える目的があることから、刑事罰を受ける可能性が高い。 

三木が決心しなければ、電脳雑技集団は、ナンノこれしきとスパイラルを買収していたであろう。それを思えば、三木の思い切りがスパイラルを守るためにどれだけ役に立ったことであろうか。

  だが、過ぎたるは猶及ばざるが如し。  三木の身には、懲戒と刑事罰のリスクが迫っている……

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