【判例解説】「追い出し条項」の落とし穴
1 「追い出し条項」について
家賃未払というのは、賃貸不動産オーナーにとって最大のリスクです。
オーナーとしては、家賃保証会社を入れて、保証人を立てることで、家賃未払のリスクを低減することができます。
他方で、家賃保証会社としては、賃貸人が、賃貸借契約を解除しないまま、未払家賃を保証し立替払いを継続するのは、デメリットです。
そこで、家賃保証会社が、下記のような条項を不動産賃貸借契約書に入れている例がありました。
第●条
家賃保証会社は、借主が賃料等の支払を2か月以上怠り、家賃保証会社が合理的な手段を尽くしても借主本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、借主が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。
2 令和4年12月12日の最高裁判例―「追い出し条項」の違法・無効
しかしながら、上記の「追い出し条項」は、最高裁によって、違法・無効なものであると判断されました。
①オーナーではない家賃保証会社が判断している点と、②明渡判決・強制執行によることなく賃貸物件の明渡しがあったものとみなす点が、消費者の利益を一方的に害し消費者契約法10条に違反するからです。
法治国家である以上、権利の内容を強制的に実現するためには、裁判所等の公的機関を用いる必要があります。
これを「自力救済禁止の原則」といいます。
要求内容の正当性を審査することなく権利実現を許してしまうと、結局、力の強い者が勝ってしまうからです。
この最高裁判例は、自力救済禁止の原則を再確認し、一定の線引きをしたと評価できます。
【参考HP】
最高裁判例要旨:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91599
判例本文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/599/091599_hanrei.pdf
3 「解除通知→明渡判決→明渡執行」という正当な手段
家賃を支払わない借主に出て行ってもらうためには、まず、賃貸借契約の解除の意思表示をする必要があります。
それでも、解除通知をしたのに退去しない場合、明渡訴訟を提起して、判決を得る必要があります。
明渡の判決を得たのにもかかわらず、それでもなお退去しない場合には、強制執行をする必要があります。
このような正当な手段によって退去を実現するためには、何か月も時間がかかります。
2~3か月も家賃の滞納があれば、速やかに解除の通知を発したうえで、弁護士に相談して、退去してもらうかを検討するのがよいでしょう。
投稿者プロフィール
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弁護士安井健馬(ウィンクルム法律事務所 兵庫県弁護士会所属)
神戸三宮にある相続・中小企業法務・M&Aに注力した法律事務所で弁護士をしています。
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